来る者もいれば去る者もいる、それは代表者とて例外ではありません。諸般の事情により不動産会社の代表者が変更になることも当然あるでしょう。
不動産会社に限った話ではなく、会社の代表者が誰なのかということは非常に重要なポイントです。宅建業免許においても、代表者に変更があれば行政へ届出をしなければなりません。
届出がされずに放置されてしまうと、公には代表者の名前が前任者のままとなってしまいます。
最たる例として、不動産業者の皆様がお持ちの「宅地建物取引業者免許証」にも代表者の氏名が記載されています。
その情報を見たお客さんに対して「代表は1年前に退職しまして・・・。」なんて話してしまえば、極端な話ですが信用問題にもつながりかねません。
代表者の氏名は会社名と同様に登場する頻度の高い情報なので、きちんと最新の情報に更新するようにしましょう。
それでは具体的にどのような手続きが必要となるのか、ここから解説していきます。
代表者変更手続きのおおまかな流れ
①代表者の登記変更申請
株式会社の場合は「代表取締役」、合同会社の場合は「代表社員」の氏名と住所がそれぞれ会社の登記簿謄本に記載されています。代表者が変更になる場合は、その記載を変更するための申請をする必要があります。
変更日に関しては任意の年月日を設定することができますが、登記申請自体はその年月日以降にならないと行えないことに注意しましょう。「1ヶ月後の○月○日に代表者が変更になるので、今のうちに申請しておきます。」といった申請は受理してもらえません。
そして、ここで定めた変更日が登記簿上に記載されます。行政への変更届は期限があり、登記簿上に記載される変更日が基準となります。
代表者の登記変更申請には、株式会社も合同会社も1件につき10,000円(資本金が1億円を超える会社の場合は30,000円)の登録免許税がかかります。
※司法書士等の専門家に依頼する場合は別途報酬等の費用がかかります。
必要書類の案内や書式のダウンロードは法務局のホームページで行えます。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html
※ご注意
代表者を変更する場合、登記申請と同時に会社の印鑑登録についても変更が必要になります。この変更は「印鑑(改印)届書」という書類を提出することにより行います。
これは会社の実印の持ち主が誰なのかという登録を変更するための手続きなので、すでに登録してあるものと同じ印鑑を使用する場合であっても必要となります。
登記申請の書類と印鑑(改印)届書の準備ができたら、会社の本店所在地を管轄している法務局に提出しましょう。
②行政への変更届を提出する
法務局により違いはありますが、特に不備がなければ書類を提出してから10日前後で代表者変更の登記は完了します。
行政への届出を行う際は代表者の変更が反映された会社登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の提出も求められますので、行政への届出は登記が完了した後に行うことになります。
なお、行政への届出は登記簿上に記載されている変更の年月日(「○年○月○日就任」と書かれている日)から30日以内に行う必要があります。登記が完了した後から行政への届出書類を準備していると期日までに間に合わないおそれがあるので、登記申請の書類と同時進行で行政への届出書類の準備も進めておきましょう。
また、届出の際に「宅地建物取引業者免許証」も提出します。都道府県知事または国土交通大臣の名前が書いてある賞状みたいな紙です。
免許証には代表者の名前が記載されるので、代表者の名前を新しくした免許証を発行してもらう必要があります。古い免許証は届出の際に提出してしまうので、念のためコピーを取っておくとよいでしょう。
なお、届出につき費用は発生しません。
③保証協会への手続きを行う
代表者が誰であるのかは、保証協会にとっても重要な情報です。変更があった際には届出をするよう求められているので、忘れずに届出を行いましょう。
手続き自体は、行政への届出をした直後に行うことができます。ここで使う書類についても、登記申請書類や行政への届出書類と同時進行で準備しておくとスムーズです。
協会や支部により提出書類が異なる場合がありますので、所属している協会の支部に事前に確認しておきましょう。
④行政から完了のハガキが届く
行政への届出を終えてから1ヶ月前後で、行政から新しい免許証の準備ができたという内容のハガキが事務所宛てに届きます。
このハガキに会社の実印を押印して行政庁へ持参すると、そのハガキと交換で新しい免許証を受け取ることができます。
代表者の名前が新しくなった免許証を受け取って、不動産会社の代表者変更手続きは完了となります。
代表者変更はいつまでに届出が必要か?
不動産会社の代表者の変更は、変更のあった日から30日以内に行政へ届け出る必要があります。
ここでいう「変更のあった日」は、会社の登記簿上に記載される「代表者の就任日」とされています。「○年○月○日就任」と記載されます。登記を申請した日や登記の完了日ではないのでご注意ください。
「氏名の変更」にご注意!
「代表者の変更」と聞くと人員の入れ替えばかりに注目してしまいますが、結婚等により氏名が変わった場合も一連の変更の手続きが必要となります。
代表者が実際に変わったわけではないので忘れてしまうことが多いですが、変更が必要であることに注意しましょう。
不動産会社の代表者変更は、登記変更の手続きや各種公的書類(身分証明書や登記されていないことの証明書)の取得といった、いわゆる「完了待ち」の状態が多くなる手続きといえます。登記が完了するのを待っていたら、書類が届くのを待っていたら、届出をすべき期限を過ぎてしまっていた・・・といった事態に陥らないよう、手続きの流れを理解したうえで余裕を持ったスケジューリングを心がけましょう。
代表者変更に着手する前に! 実は他に変更していた、ということはありませんか?
代表者の変更という変更の手続きを行う前に、他に何か免許を受けた時または更新した時から変わったことはありませんか?宅建業では一定事項に変更が生じた場合には行政に届出をしなければなりません。
変更時に届出が必要になる一例
- 業者の商号・名称・氏名
- 役員の就任・退任
- 役員の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
- 専任の宅地建物取引士の就任・退任
- 専任の宅地建物取引士の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
- 本店・支店の所在地(同一都道府県内での移転)
※役員と専任の宅地建物取引士の住所については、変更があっても届出は不要です。
上記の事項につき変更があったにもかかわらず届出がされていない場合、代表者変更についての手続きの他にこれらの変更手続きも行わなければなりません。まずは会社として重要な事項に変更がなかったかを確認してください。
また、上記の変更は変更があった日から30日以内に変更の届出をしなければなりません。期限を過ぎてからの変更の届出は受け付けてもらえないわけではないですが、始末書の提出を求められることがあります。
当事務所でも、変更が行われていなかったために手続きが増え、余計な手間がかかってしまったという相談を非常に多くいただいております。
変更が必要なのに行われていなかった事例
- 代表取締役の変更があったが、変更の届出をしていなかった。
- 代表取締役や役員、専任の取引士が結婚して名前が変わったのに、変更の届出をしていなかった。
- 専任の宅地建物取引士に就退任があったが、変更の届出をしていなかった。
※専任の宅地建物取引士については、業者として行う変更の届出とは別に宅建士が個人で行う「勤務先の変更」という手続きがあります。この「勤務先の変更」だけを行って、業者としての専任の宅地建物取引士変更の届出を行わないでいる業者さんが非常に多いです。
- 専任の宅地建物取引士:「勤務先が変わったので届出をします。」
- 宅建業者:「ウチで雇っている専任の宅地建物取引士が変わったので届出をします。」
この2つの手続きは完全に別物です。どちらも完了していないとダメなのでお気を付けください。
まとめ
- 不動産会社の代表者が変更になった場合は、免許を受けている都道府県または国土交通大臣に変更の届出をする必要がある。
- 行政への変更の届出に先立ち、会社登記簿に記載されている代表者を変更する必要がある。
- 代表者変更の登記が完了したら、行政への変更の届出を行う。
- 行政への変更の届出は、登記簿上に記載されている代表者の変更年月日から30日以内に行わなければならない。
- 行政への変更の届出が完了したら、加入している保証協会への変更手続きを行う。
- 行政への届出完了から1ヶ月前後で、代表者の氏名が新しくなった宅地建物取引業者免許証が発行される。