宅建業の事務所を追加するには ~手続きの流れと注意する点~ 


本店一つで始めた宅建業が軌道に乗ってきたので、新しい事務所を開設して更なる事業拡大を目指していこうとお考えの方もいらっしゃるでしょう。

宅建業においては、宅建業を行う事務所の「数」と「所在地」が重要項目となっています。新しい事務所を開設するということは、新しい所在地に事務所の数が増えることになるわけですから、それだけの手続きを行わなければなりません。

事務所追加の手続きは都道府県に行う手続きのほか、保証協会に行う手続きもあり、宅建業免許の手続きの中でもかなり時間と手間のかかる部類に入ります。

新しい事務所での営業を始められるかどうかは事務所の追加をスムーズに行うことにかかっているので、しっかりと手続きの流れを理解し、スムーズに進められるようにしておきましょう。

事務所を新設する前に!人員・設備は足りていますか?

事務所の追加を検討中ということは、すでに免許を受けて宅建業を営んでいる業者さんでしょうから、専任の宅地建物取引士の設置義務(5人に1人以上の割合)についてはご存知かと思います。

宅建業においては、事務所ごとに専属で宅建業に従事する人員を配置しなければなりません。そのため、新しい事務所を開設するのであればその事務所に専属となる「支店長」のような立場の人員が必要になります。

このような立場の人を宅建業では「政令使用人」といいます。政令使用人は会社の役員が務める必要はありませんが、宅建業免許では役員と同じように扱われています。

さらに、新しい事務所に専属となる「専任の宅地建物取引士」も新たに必要となります。複数の事務所で兼任ができないので、例えば本店で専任の宅地建物取引士を務めている方に新しい事務所の専任の宅地建物取引士も同時に務めてもらおうといったことはできません。
※本店から離れて異動させるのであれば問題ありません。

新しい事務所に最低限用意しなければならない人員は、「政令使用人」と「専任の宅地建物取引士」です。

政令使用人と専任の宅地建物取引士は兼任することができるので、新しい事務所で専任の宅地建物取引士を務めてもらう方に政令使用人も務めてもらうというのがよくあるパターンです。

設備面でいえば、最重要かつ準備に時間がかかるのは固定電話の設置でしょう。新しい事務所でも、当然新しい事務所専用の固定電話番号が必要になります。本店や他の事務所と共通の番号は使用できないので注意しましょう。

固定電話の設置も含め、接客用の机や椅子を設ける等基本的なことは本店と同じです。

弁済業務保証金分担金or営業保証金の増額にも注意!

宅建業者の皆様は、保証協会に加入し弁済業務保証金分担金を納付するか法務局に営業保証金を供託するかのいずれかの手続きを必ず行っています。

弁済業務保証金分担金または営業保証金の金額は、宅建業を営む事務所の数によって決まります。事務所を新しく開設するとこれらの金額がアップするので、追加で用意しなければなりません。

弁済業務保証金分担金 本店以外の事務所1ヶ所につき+30万円
営業保証金 本店以外の事務所1ヶ所につき+500万円

ついつい見落としがちですが、決して安くはない金額なので注意しておきましょう。

新しい事務所はどこに開設する?場所によって手続きが大きく異なる!

業者の皆様がすでに受けている宅建業免許には、大きく分けて都道府県知事免許(知事免許)と国土交通大臣免許(大臣免許)の2種類があります。

どちらの免許を受けるのかは、宅建業を営む事務所の所在地によって決まります.

1つの都道府県内にのみ事務所がある場合 その都道府県知事から免許を受ける(知事免許)
2つ以上の都道府県に事務所がある場合 国土交通大臣から免許を受ける(大臣免許)

間違えやすいのが、事務所の「数」は関係ないという点です。事務所が100ヶ所あってもそれが全て東京都にあれば免許を受けるのは東京都知事からですし、事務所が2ヶ所でも本店は東京都、支店は神奈川県にあるという場合は国土交通大臣から免許を受けることになります。

都道府県知事免許を受けている業者の皆様は、新しい事務所をどこに開設するのかによって手続きが変わってきます。

必要となる手続きは次の2パターンがあります。東京都知事免許を受けている業者を例に見ていきましょう。

①東京都知事免許を受けている業者が、新しい事務所を東京都内に開設する

東京都知事免許の変更の申請を行う。

②東京都知事免許を受けている業者が、新しい事務所を神奈川県内に開設する

東京都知事免許の変更の申請を行い、国土交通大臣免許への免許換え申請を行う。

このように、新しい事務所を現在免許を受けている都道府県と同じところに開設するのか、違うところに開設するのかによって手続きが異なります。

また、詳しくは後述しますが保証協会に加入している場合は保証協会に対しても変更等の手続きが必要となります。

手続きの大まかな流れ

おおまかな流れとしては次の通りです。書類を提出してから営業開始までは少なくとも1ヶ月程度の期間を要します。

特に気を付けなければならない点は、新しい事務所とそこでの人員をすべて用意してから申請をするという点です。申請だけ先にしておいて事務所や人員を探すということはできません。

申請してから審査が行われている最中は新しい事務所で営業はできませんが家賃や人件費は生じてしまうことにも注意が必要です。

また、他の変更手続きとは少々感覚が異なり、都道府県に事務所新設の申請書類を提出してもその申請はあくまで「仮受付」として扱われます。出して終わりではありません。その後事務所そのものの調査や弁済業務保証金分担金または営業保証金の追加が行われたかどうかの確認を経てようやく本受付となります。

都道府県知事への変更の申請とは?

新しい事務所をどこに開設するにしても、まず自身が宅建業免許を受けている都道府県にて変更の手続きを行わなければならないことは一緒です。

事務所新設の変更に着手する前に! 実は他に変更していた、ということはありませんか?

事務所を新しく開設するという変更の手続きを行う前に、他に何か免許を受けた時または更新した時から変わったことはありませんか?宅建業では一定事項に変更が生じた場合には行政に届出をしなければなりません。

変更時に届出が必要になる一例

  • 業者の商号・名称・氏名
  • 役員の就任・退任
  • 役員の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
  • 専任の宅地建物取引士の就任・退任
  • 専任の宅地建物取引士の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
  • 本店・支店の所在地(同一都道府県内での移転)
    ※役員と専任の宅地建物取引士の住所については、変更があっても届出は不要です。

上記の事項につき変更があったにもかかわらず届出がされていない場合、事務所の新設についての手続きの他にこれらの変更手続きも行わなければなりません。まずは会社として重要な事項に変更がなかったかを確認してください。

また、上記の変更は変更があった日から30日以内に変更の届出をしなければなりません。期限を過ぎてからの変更の届出は受け付けてもらえないわけではないですが、始末書の提出を求められることがあります。

当事務所でも、変更が行われていなかったために手続きが増え、余計な手間がかかってしまったという相談を非常に多くいただいております。

変更が必要なのに行われていなかった事例

  • 代表取締役の変更があったが、変更の届出をしていなかった。
  • 代表取締役や役員、専任の取引士が結婚して名前が変わったのに、変更の届出をしていなかった。
  • 専任の宅地建物取引士に就退任があったが、変更の届出をしていなかった。
    ※専任の宅地建物取引士については、業者として行う変更の届出とは別に宅建士が個人で行う「勤務先の変更」という手続きがあります。この「勤務先の変更」だけを行って、業者としての専任の宅地建物取引士変更の届出を行わないでいる業者さんが非常に多いです。

専任の宅地建物取引士:「勤務先が変わったので届出をします。」
宅建業者:「ウチで雇っている専任の宅地建物取引士が変わったので届出をします。」

この2つの手続きは完全に別物です。どちらも完了していないとダメなのでお気を付けください。

いよいよ事務所新設の手続きへ!都道府県に届け出なければならない事項は?

事務所の新設にあたっては、次の3つの事項について変更があったことを届け出なければなりません。

①従たる営業所の新設
②政令使用人の就任
③専任の宅地建物取引士の就任

新しくできるのに「変更」というとどこか変に感じるかもしれませんが、「何もなかった→新しくできた」という内容の変更だと捉えてください。

①従たる営業所の新設

宅建業では、本店以外の事務所のことを「従たる営業所」といいます。(本店は「主たる営業所」です。)
新しい営業所はここの住所にあって、電話番号はこれで従業者は何人で・・・といった事項を届け出ることになります。

事務所内の写真撮影が必要!

新規免許申請の時と同様、新しい営業所も詳細な写真撮影が必要になります。

事務所名の決め方に注意!

新しい事務所には「○○店」「○○営業所」「○○サテライト」のような事務所の名称を付けてあげる必要があります。基本的には好きな名前を付けられますが、「○○支店」という名称を付けたい場合は注意が必要です。都道府県によって扱いは異なりますが、「○○支店」という名称を用いたい場合は原則として「支店の登記」が行われていなければなりません。

支店の登記をするにも登録免許税等の費用がかかる上に手間も増えるので、「○○支店」という名称にしたい場合は注意が必要です。

専用の固定電話番号を用意すること!

宅建業では、「事務所ごとの専用の固定電話番号」を強く求められます。連絡は全部本店にさせたい、連絡専用の電話番号を用意している、といった理由から、新しい事務所専用の電話番号を用意していない業者さんもいらっしゃいますが、それでは受け付けてもらえないので必ず新しい事務所専用の固定電話番号を用意しましょう。

②政令使用人の就任③専任の宅地建物取引士の就任

新しい事務所を設置するにあたってはそこに専属の人員が必要となるので、その人員を誰にしますよということを届け出る手続きです。

政令使用人と専任の宅地建物取引士は一人の方が兼務できるので、政令使用人を務めてくれる人と専任の宅地建物取引士を務めてくれる人を別々に用意する必要はありません。

他の業者や事務所との兼任はNG!

政令使用人も専任の宅地建物取引士も、どちらも一つの事務所に専属でなければなりません。他の業者に勤めている場合はもちろん、同じ業者内でも違う事務所で政令使用人や専任の宅地建物取引士を務めながら兼任することはできません。退職や異動によって専属にできるのであれば問題はありません。

欠格事由に注意!

国から免許を受けて行う宅建業ですから、過去に不正を働いていた人間や、破産者や正常な判断能力がないような人間に任せるわけにはいきません。
政令使用人や専任の宅地建物取引士は、就任の手続きの際に「登記されていないことの証明書」と「身分証明書(※運転免許証などのことではありません)」の提出を求められます。欠格事由に該当する場合は就任することができないのでお気を付けください。

また注意が必要なのが、「前にいた会社が不正をしていたか」どうかです。不正をしていた会社に役員として勤めていた場合でも欠格事由に当たることがあるので注意が必要です。

他にも、反社会的勢力の一員であるなど、一般従業員として加わる場合でも欠格事由に該当することがあります。なんにせよ、黒いつながりは避けましょう・・・。

都道府県の窓口に提出した新しい事務所開設の申請書類は、この時点では「仮受付」という扱いになります。事務所が新しく増えることによって弁済業務保証金分担金または営業保証金が増額となるため、増額分が用意されたことの確認が取れるまで本受付とはなりません。

新しい事務所を現在免許を受けている都道府県と同じところに開設する場合であれば、行政への手続きはここで一区切りとなります。

別の都道府県に新しい事務所を開設する場合は、同時に国土交通大臣免許への免許換え申請を行うことになります。

国土交通大臣免許への免許換え手続きは、感覚としては新規で免許を取得しなおすようなものとお考えください。新規免許申請と同じくらいの手間がかかるので、書類の準備は早めに行いましょう。

国土交通大臣免許への免許換え手続きの詳細は、別途解説ページがございますのでそちらをご参照ください。

保証協会での新しい事務所追加の手続き(または営業保証金の追加供託)も忘れずに!

事務所を新設する場合、納付すべき弁済業務保証金分担金または供託すべき営業保証金の金額が増えることになります。
都道府県に事務所新設の申請書類や大臣免許への免許換え申請書類を提出しても、この追加金額を用意できていることの確認が取れないと手続きが進みません。

保証協会の場合は本店の新規入会の時と同様、都道府県に書類を提出した直後に手続きに移ることができるので、こちらの書類についても早めに用意しておくと良いでしょう。

ここでは、新しい事務所を現在免許を受けている都道府県と同じところに開設する場合、つまり大臣免許への免許換えが不要な場合における手続きの流れについて解説していきます。

※大臣免許への免許換えが必要となる場合の手続きについては、別ページで解説しておりますのでこちらをご覧ください。

保証協会に加入している場合

全国宅地建物取引業協会連合会(ハト)と全日本不動産協会(ウサギ)とで手続きが多少異なりますが、共通して言えることは「新しい事務所を新しく入会させる」手続きが必要になるという点です。本店を「本会員」、本店以外を「準会員」と扱っています。

どちらも都道府県庁に申請書類を提出していることが前提になる手続きではあるものの、早いうちに現在加入している協会に問い合わせをして必要な書類を取り寄せておくとよりスムーズに動くことができます。

新しい事務所追加に際しての注意点

協会の支部によっては、紹介者が必要になるなど手続きに移るまでに必要となる条件が異なる場合があります。
可能であれば免許換えの手続きに着手する前に、新しい事務所を設ける予定の協会の支部に何か特殊な手続きがないかどうか確認を取っておくとより確実です。

申請の時期 都道府県庁に免許換えの申請をした後すぐ
申請に必要な書類 都道府県庁に提出した申請書類の副本
協会所定の変更手続き書類及び新しい事務所の新規入会書類
申請手続きを行う場所 新しい事務所の所在地を管轄する協会の支部
※全国宅地建物取引業協会連合会(ハト)は支部が細かく分かれていますが、全日本不動産協会(ウサギ)はさほど細かく分かれておらず、本部で手続きを一本化している場合が多いです。新しい事務所についての手続きを担当するのはどこなのか、事前に確認しておきましょう。
申請に必要な費用 新しい事務所の新規入会費用※弁済業務保証金分担金の追加分を含む

事務所面談もあります!

すでに協会に入会されている業者さんは経験したと思いますが、事務所を新設する以上その事務所での面談があります。本店での面談と同様に、協会の偉い人たちが事務所にやってきて事務所としての要件を満たしているか、人員は配置されているかといったチェックの場となります。

面談に出席しなければならないのは新しい事務所の代表者(政令使用人)と専任の宅地建物取引士です。そのため、会社の代表取締役の出席は必須ではありません。

弁済業務保証金分担金の追加納付

弁済業務保証金分担金は事務所の数により用意する金額が決まるので、事務所を増やす場合は追加でお金を用意する必要がります。
本店の分として60万円の納付をしているのに加えて、支店1つごとに30万円の納付が必要です。ハトとウサギどちらの場合も、この金額を含めた手続き費用を案内してくれる場合がほとんどです。

営業保証金を供託している場合

本店の分として1,000万円を供託しているのに加えて、新しい事務所1つごとに500万円の供託が必要になります。

供託先は本店所在地を管轄する供託所1ヶ所のみです。新しい事務所の分はそっちの所在地を管轄する供託所に供託してしまうという間違いが多いのでお気を付けください。

手続きが終わったら・・・

保証協会で手続きをした場合でも営業保証金の追加供託をした場合でも、ご自身でその旨を都道府県まで届け出る必要があります。郵送では受け付けてもらえないので、ご自身で窓口まで持参する必要があります。

【必要書類】東京都の場合

保証協会で手続きをした場合

  • 弁済業務保証金分担金納付書(提示用の原本と、提出用のコピーが必要です。)
  • 仮受付となっていた都道府県への申請書類の受領印付き控え一式

営業保証金を供託した場合

  • 営業保証金供託済届出書(控えが必要な場合は、コピーを持参する。)
  • 供託書の原本と写し(提示用の原本と、提出用のコピーが必要です。)
  • 仮受付となっていた都道府県への申請書類の受領印付き控え一式

これらの書類を提出することで、都道府県に出していた事務所追加についての申請書類がようやく「本受付」扱いとなり、手続き完了となります。この手続き完了をもってはじめて、新しい事務所での営業を開始できます。

新しい事務所の設置でお困りの不動産会社様へ

当事務所では、これから支店を設置される不動産会社様に対して、宅建業免許に関し必要な手続きをサポート・代行させていただくサービスを提供中です。

保証協会の手続きも合わせて進めることで、手間や時間を大幅にカットしていただくことが可能です。お困りの際は活用をご検討ください。

サービス 料金 法定費用等
専任宅地建物取引士の設置 33,000円
支店・従たる事務所の設置 55,000円 ※登記する場合は免許税

まとめ

  • 新しい事務所を追加するためには、その事務所に専属の政令使用人と専任の宅地建物取引士を新たに配置しなければならない。
  • 事務所の追加によって弁済業務保証金分担金または営業保証金の額が増えるので、追加で用意する必要がある。
  • 行政への届出は、新しく追加する事務所やそこに専属の人員を用意してから行う。
  • 新しい事務所の追加は、現在免許を受けている都道府県に変更の届出をすることによって行う。
  • 現在免許を受けている都道府県とは別の都道府県に事務所の追加する場合は、変更の届出に加えて国土交通大臣免許への免許換え手続きが必要となる。
  • 保証協会に加入している場合は協会への事務所追加の手続き、営業保証金を供託している場合は追加供託の手続きがそれぞれ必要となる。
  • 弁済業務保証金分担金の納付書または供託書を都道府県の窓口に提示及び提出することで、事務所追加の手続きは完了する。
  • 事務所追加の手続きが完了してはじめて、新しい事務所での営業を開始できる。

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