都道府県庁から免許証を受け取り、保証協会への加入手続きも無事に終わり、ようやく一段落・・・と言いたいところですが、免許を受けた後も開業前にやらなければならないことは残っています。
用意しなければならないものは法律で決まっているため、用意を怠れば行政から処分を受ける場合があります。
また、開業後も変更事項が生じた場合の届出や免許の更新といった必要手続きがあります。
しかし、これらの手続きについては宅建業免許の手引きに書いてあるというくらいで行政から細かく説明がなされるわけではありません。業者が自ら理解し、自ら準備をする必要があります。
「そんなの知らなかった!」とならないためにも、免許を受けた後に注意すべき点についてしっかりと理解しておきましょう。
免許が受けられても油断は禁物!
用意しておかなければならないものとは?
免許を受けられたからといって、好き勝手に経営をしていいわけではありません。用意しなければならないものがいくつかあります。
①従業者証明書 ※宅建業に従事する人全員に1つずつ
- サイズ目安 縦5.4cm×横8.5cm クレジットカードと同じくらいのサイズです。
- 素材は問いません。コピー用紙に印刷したものでも、プラスチックカードを作成しても自由です。
- 顔写真が必要です。サイズは縦3cm×横2.4cmの免許証サイズです。
いうなれば社員証のようなものです。代表者であろうとアルバイトであろうと、宅建業に関わる人には例外なくこれを携帯させなければなりません。取引の際、請求があれば相手方に提示する必要があります。
宅地建物取引士が持っている「宅地建物取引士証」は顔写真付きの身分証であり従業者証明書と似ていますが、宅地建物取引士証を従業者証明書の代わりにすることはできません。宅地建物取引士の分の従業者証明書も必ず用意してください。
②従業者名簿 ※データ管理も可
取引の関係者から請求があれば提示する必要があります。
最新の記載をした日から10年間の保存義務があります。例えば従業員の誰かが退職した場合は、その退職日を記載し、10年間はその人の記載を名簿上に残しておく必要があります。
また、支店がある場合は本店のものと支店のものを別々に作成し、それぞれで保管しておく必要があります。
【記載すべき事項】
- 氏名
- 性別
- 生年月日
- 従業者証明書番号
→宅建業免許申請の際に指定する、6ケタの番号です。
免許申請の時点で入社している場合
免許申請をした年月(4ケタ)+任意の番号(2ケタ)
2019年7月に申請をした場合は、190701といった番号になります。末尾の2ケタは任意の番号を定めることができますが、01、02、・・・と順番に定めることがほとんどです。
免許取得後に入社した場合
入社した年月(4ケタ)+任意の番号(2ケタ)
2019年7月に免許申請をし、その免許を取得後2019年9月に入社した場合、その方の番号は190903といった番号になります。
主たる職務内容
代表者の方は「代表者」、専任の宅地建物取引士の方は「専任」と記載します。他の方は「営業」や「事務」のように記載します。
宅地建物取引士であるか否かの別
宅地建物取引士である場合は、この欄に宅地建物取引士の登録番号を記載します。専任の宅地建物取引士でなくても、宅地建物取引士であれば記載します。
専任の宅地建物取引士であれば◎を、専任の宅地建物取引士でない場合は〇を、それぞれ登録番号の先頭に記載します。◎13-000000といった形です。
宅地建物取引士でない方であれば、この欄は空欄で大丈夫です。
この事務所の従業者となった年月日
入社日を記載します。免許申請の時点で入社していた場合は、免許年月日を記載します。
この事務所の従業者でなくなった日の年月日
退職日を記載の上、他の欄に取消線を引いておきます。
記載事項に変更が生じた場合は、取消線を引いて訂正するというのが一般的ですが、変更が多い場合は作り直すという場合もあります。作り直した場合でも、作り直す前の名簿の保存義務は当然あるのでお気を付けください。
③帳簿
取引ごとに帳簿を作成し、保存しておく必要があります。個人情報なので提示義務はありませんが、5年間(自身が売主となる新築物件にかかるものは10年間)の保存義務があります。
④業者票
サイズ
縦30cm以上×横35cm以上 大きい分には問題ありませんが、小さいのはダメです。
素材
問いません。コピー用紙を額縁に入れる方もいらっしゃれば、アクリルや金属板に打ち込んだものを作成される方もいらっしゃいます。
業者票は、いわゆる宅建業者のプロフィール表のようなものです。業者名や住所を記載して、お客様の見やすい場所に掲示しておく必要があります。
記載事項
- 免許証番号
- 免許有効期間
- 商号又は名称
- 代表者氏名
- この事務所に置かれている専任の宅地建物取引士の氏名
- 主たる事務所の所在地・電話番号
こちらが作成例です。
⑤報酬額表
宅建業は、業者がもらうことのできる報酬額の上限が法律で決まっています。ルール内であれば好きに報酬額を定められますが、その金額や計算方法を掲示しておかなければなりません。
ただし、報酬額表にはひな形があり保証協会等でもらうことができます。実際にはその報酬額表をそのまま掲示する業者がほとんどです。
変更届を忘れない!
宅建業では一定事項に変更が生じた場合には行政に届出をしなければなりません。
変更時に届出が必要になる一例
- 業者の商号・名称・氏名
- 役員の就任・退任
- 役員の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
- 専任の宅地建物取引士の就任・退任
- 専任の宅地建物取引士の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
- 本店・支店の所在地(同一都道府県内での移転)
※役員と専任の宅地建物取引士の住所については、変更があっても届出は不要です。
上記の変更は変更があった日から30日以内に変更の届出をしなければなりません。期限を過ぎてからの変更の届出は受け付けてもらえないわけではないですが、始末書の提出を求められることがあります。
変更届が必要な変更があったのにそれが行われずに放置されていると、後々免許の更新や免許換え手続きの際に申請を受け付けてもらえなくなります。何か変更があれば、届出が必要かどうか確認する癖をつけるようにしましょう。
当然、変更があったからといって行政側から「変更が必要ですよ」という通知が来るわけでもありません。
当事務所でも、変更が行われていなかったために更新や免許換えの申請を受け付けてもらえなかったという相談を非常に多くいただいております。
変更が必要なのに行われていなかった事例
- 代表取締役の変更があったが、変更の届出をしていなかった。
- 代表取締役や役員、専任の取引士が結婚して名前が変わったのに、変更の届出をしていなかった。
- 専任の宅地建物取引士に就退任があったが、変更の届出をしていなかった。
※専任の宅地建物取引士については、業者として行う変更の届出とは別に宅建士が個人で行う「勤務先の変更」という手続きがあります。この「勤務先の変更」だけを行って、業者としての専任の宅地建物取引士変更の届出を行わないでいる業者さんが非常に多いです。
- 専任の宅地建物取引士:「勤務先が変わったので届出をします。」
- 宅建業者:「ウチで雇っている専任の宅地建物取引士が変わったので届出をします。」
この2つの手続きは完全に別物です。どちらも完了していないとダメなのでお気を付けください。
また、保証協会への届出が必要になる変更もありますので、変更があったときには保証協会にも確認することを忘れないようにしてください。
宅建免許は5年更新!
宅建業の免許は5年間の有効期限があり、引き続き宅建業を行いたい場合は更新の手続きをとらなければなりません。
更新手続きができるのは、免許期間満了日の90日前から30日前までの間です。
更新のタイミングが近づくと都道府県からお知らせが届きますが、更新の手続きには新規のときと同じくらいの書類を用意する必要があります。
会社の繁忙期と更新の時期が被ってしまうと書類の用意が間に合わなくなることもあるので、余裕のあるうちに準備をしておくとよいでしょう。
ちなみに、保証協会には更新のときに行う手続きはありませんが、変更があれば届出が必要になる場合があります。
免許を無事に受けられた後でも、開業前に業者自身で必要書類を準備する必要があります。変更が生じた場合には期間内に届出をしなければならない上、5年ごとに更新の手続きもしなければなりません。免許を受けられたからといってそこで終わりではなく、行政上の手続きとも上手く付き合っていくことがスムーズな宅建業経営において不可欠になってきます。
これらの手続きは行政側から親切に教えてくれるものではないので、ご自身でしっかりと理解し、然るべき備えをしておくことが大切です。
本ページをご覧いただいたことで、ご準備の手助けができていれば幸いです。
まとめ
- 宅建業免許が下りた後は、従業者証明書などの各種書類を備えておく必要がある。
- それらの書類は、業者自身で用意しなければならないものがほとんどである。
- 宅建業において一定事項に変更が生じたら、行政に届出をしなければならない。
- 変更が生じたからといって、行政側から「変更が必要ですよ」と教えてくれるわけではない。
- 宅建業免許は、5年ごとに更新手続きをとらなければならない。