都道府県知事免許を受けている業者の本店移転は、新しい都道府県知事免許への免許換えという手続きにより行います。
免許換えといっても、新しい都道府県知事から免許を受けることになるわけですから、事実上は新規の免許をもう一度受け直すというイメージです。
移転に着手する前に! 実は変更していた、ということありませんか?
現在営業をされている会社について、免許を受けた時または更新した時から、変わったことはありませんか?宅建業では一定事項に変更が生じた場合には行政に届出をしなければなりません。
変更時に届出が必要になる一例
- 業者の商号・名称・氏名
- 役員の就任・退任
- 役員の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
- 専任の取引士の就任・退任
- 専任の取引士の氏名(結婚等に伴う改姓を含む)
- 本店・支店の所在地(同一都道府県内での移転)
※役員と専任の取引士の住所については、変更があっても届出は不要です。
上記の事項につき変更があったにもかかわらず届出がされていない場合、免許換えの申請を受け付けてもらえません!本店の移転に着手する前に、まずは会社として重要な事項に変更がなかったかを確認してください。
また、上記の変更は変更があった日から30日以内に変更の届出をしなければなりません。期限を過ぎてからの変更の届出は受け付けてもらえないわけではないですが、始末書の提出を求められることがあります。
変更の届出が必要な場合は、移転をする前つまり現在免許を受けている都道府県において変更の届出を済ませておく必要があります。
当事務所でも、変更が行われていなかったために他の都道府県への移転申請を受け付けてもらえなかったという相談を非常に多くいただいております。
変更が必要なのに行われていなかった事例
- 代表取締役の変更があったが、変更の届出をしていなかった。
- 代表取締役や役員、専任の取引士が結婚して名前が変わったのに、変更の届出をしていなかった。
- 専任の取引士に就退任があったが、変更の届出をしていなかった。
※専任の取引士については、業者として行う変更の届出とは別に宅建士が個人で行う「勤務先の変更」という手続きがあります。この「勤務先の変更」だけを行って、業者としての専任の取引士変更の届出を行わないでいる業者さんが非常に多いです。
- 宅建士:「勤務先が変わったので届出をします。」
- 宅建業者:「ウチで雇っている宅建士が変わったので届出をします。」
この2つの手続きは完全に別物です。どちらも完了していないとダメなのでお気を付けください。
各種変更が済みましたら、いよいよ移転の手続きに着手しましょう!
他の道府県から東京都への本店を移転する場合
まずは本店の移転登記
東京都にて免許換えの申請をする前に、会社登記簿上の本店所在地を変更する登記を行う必要があります。本店移転登記の手続きは移転先によって流れが変わりますが、今回は他の都道府県、つまり他の法務局の管轄地域に本店を移転するパターンを解説します。
- 株主総会で定款の変更につき特別決議(議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席した株主の3分の2以上が賛成する)での議決を得る
- 取締役会で移転先と移転日時を決める(取締役の過半数が賛成する)
- 移転前の管轄法務局に必要書類を提出する
【必要書類】
- 株主総会議事録(定款変更について) ※定款には本店の所在地が記載されているため、移転に伴い内容を変更する必要があります。
- 取締役会議事録(移転先と移転日時の決定について)
- 株主リスト
- 法務局所定の移転登記申請書 2通 ※移転前の管轄法務局宛てと、移転先の管轄法務局宛ての合計2通必要になります。提出は2通まとめて移転前の管轄法務局にすることができます。
- 印鑑届書 ※移転前の法務局で発行してもらった印鑑カードが使えなくなるので、移転先で改めて印鑑登録をし、新しい印鑑カードの発行をしてもらう必要があります。
- 登録免許税 6万円
※本店移転登記には1件につき3万円の登録免許税がかかります。移転前の管轄法務局と移転先の管轄法務局の両方に納める必要があるため、合計6万円です。
各種書式等は法務局のページでダウンロードすることができます。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html#anchor1-3
支店登記を行っている場合
支店の登記を行っている場合は、支店を管轄する法務局でも同じ手続きをとる必要があります。ただし、次のような場合は必要ありません。
- 移転前の本店と支店の管轄法務局が同じである
- 移転先の本店と支店の管轄法務局が同じである
免許換え用の申請書類を作成し、東京都庁へ申請
用意しなければならない書類は、新規で免許を取得する場合と基本的には同じです。
東京都の申請書はこちらでダウンロードすることができます。
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/sinsei/491menkyo00.htm
申請書類に必要な事項を記入していくことはもちろん必要ですが、何より大変なのは提出する事務所の写真撮影です。
当然移転先の事務所の写真を撮影して提出する必要がありますから、新しい事務所の整備や、遠方からの移転であれば都内への移動にも時間がかかるでしょう。
申請書類の作成には1ヶ月から1ヶ月半、申請してから免許換えが完了するまで1ヶ月ほど、申請だけでも2か月以上の期間は見込んでおきましょう。
東京都の保証協会に加入または営業保証金の供託
保証協会の移転手続きは、全国宅地建物取引業協会連合会(ハト)と全日本不動産協会(ウサギ)とで異なります。また、各都道府県の支部によっても扱いが異なる場合がありますので、移転手続きに移る前に一度現在入会している協会に問い合わせをしておきましょう。
ここでは、神奈川県の協会から東京都の協会に移るという場合を例にとってご案内します。
全国宅地建物取引業協会連合会(ハト)に入会している場合
申請の時期 | 東京都庁に免許換えの申請をした後すぐ |
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申請に必要な書類 | 東京都庁に提出した免許換え申請書類の副本 宅建協会所定の変更手続き書類 |
申請手続きを行う場所 | 移転前(神奈川県)の協会と移転後(東京都)の協会の両方 |
申請に必要な費用 | 東京都宅建協会の再入会費用 東京都政治連盟の再入会費用(※加入は任意) |
この際、費用面については、それぞれ下記のような扱いになります。
弁済業務保証金分担金 | 移転先に引継ぎ可能 |
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宅建協会入会金 | 引継ぎ不可、移転先に新規入会する |
宅建業保証協会 | 移転先に引継ぎ可能 |
政治連盟 | 引継ぎ不可 移転先に新規入会する |
移転先に引継ぎができないものについては、移転先で再度費用を支払い入会する形になります。
全日本不動産協会(ウサギ)に入会している場合
申請の時期 | 免許換えの手続きが完了し、都庁からの通知ハガキが届いてから |
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申請に必要な書類 | 東京都庁に提出した免許換え申請書類の副本 宅建協会所定の変更手続き書類 |
申請手続きを行う場所 | 移転前(神奈川県)の協会 |
申請に必要な費用 | 移転手続き手数料 10万円 TRAへの入会金 5万円 + 年会費 ※東京都への移転の場合のみ |
入会時に支払った弁済業務保証金分担金や協会への入会金等は全て移転先に引き継ぐことができます。
注意
上記の手続きは、あくまでも全国宅地建物取引業協会連合会から全国宅地建物取引業協会連合会へ、または全日本不動産協会から全日本不動産協会へ移転をする場合の手続きです。
全日本不動産協会に所属していたけれど、免許換えを機に全国宅地建物取引業協会連合会へ切り替えたい、といった方は、移転前の協会を退会した後、移転後の協会に新規入会する必要があります。
保証協会に入会せず、法務局に営業保証金を供託している場合
金銭のみで供託をしている場合は、「保管替え」という手続きを行います。
手続き書類の提出先は、全て移転前の管轄法務局です。提出書類等は管轄法務局により異なりますので、移転手続き前に問い合わせて確認しておきましょう。
金銭だけでなく、有価証券も用いて供託をしている場合は保管替えの手続きが取れません。移転先の管轄法務局に供託をしてから、移転前の管轄法務局に供託した供託金を取り戻すという流れになります。
※この場合は、取戻しに際し債権者への公告は必要ありません。
供託が完了してからの手続きは、上に記載した金銭のみで供託をしていた場合と同じです。
免許換えの申請をしてから東京都知事への免許換えが完了するまでの間、どこで営業することができる?
免許換えは、免許通知ハガキが業者のもとに届いてはじめて完了となります。
つまり、免許通知ハガキが届くまでは移転前の道府県から免許を受けている業者という扱いになります。
ここで注意しなければならないのは、免許換えの申請をしてから免許通知ハガキが届くまでの間、「東京都内の新しい事務所で営業ができるかどうか」です。こちらについては道府県ごとに扱いが異なるため、事前に確認しておく必要があります。
東京都から他の道府県への本店を移転する場合
手続き上の流れとしては、他の道府県から東京都へ移転する場合と変わりません。
東京都知事の免許を受けている業者は、免許換えの申請を他の道府県で行ってから免許換えが完了するまでの間であっても、東京都知事の免許のまま移転先の道府県で営業を始めることができます。
いかがだったでしょうか。会社の本店を便宜上移転しただけという場合でも、不動産会社として宅建業免許を受けていると、免許換えの手続きは意外と面倒で手間のかかるものとなります。
もし会社内で進めることが難しければ、本店移転が決定した段階で、行政書士に相談して最低限の手間で済ませることもご検討ください。