皆さんは、「支店」と「営業所」の違いについて意識されたことはあるでしょうか。
本店以外に別のオフィスを設けている場合に、そこを「○○支店」や「○○営業所」、「○○出張所」といった呼び方をされることと思います。
しかしながら、この中で「支店」だけは「支店の登記」を行うことで認められるという他とは異なる扱いとなっています。
支店の登記とはどのようなものなのか、そのメリット・デメリットを見ていきましょう。
そもそも「支店の登記」とはどんなもの?
簡単に言えば、本店以外のオフィスの住所を登記簿上に登録する手続きです。
皆様の会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)をご覧いただくと、必ず「本店」という欄に本店所在地の住所が記載されているはずです。
本店と同様に、本店以外のオフィスの住所を登録して「支店はここにあります」ということを登記簿上に記載することができます。これが「支店の登記」です。
支店の登記は本店以外にオフィスを設けた際には基本的に行うことになっていますが、宅建業免許の諸手続きにおいては必須ではありません。
支店の登記はどのように行う?
支店の登記は、法務局に登記申請書類を提出することによって行います。手続きの流れを見ていきましょう。
①会社として、支店設置の意思決定をする
支店設置の最終決定を行うのは、会社の取締役です。決議方法は次の通りです。
- 取締役会を設置していない会社の場合 → 取締役の過半数の賛成(取締役決議書を作成)
- 取締役会を設置している会社の場合 → 取締役会の決議(取締役会議事録を作成)
②書類を作成し、法務局への申請を行う
書式は法務局のサイトからダウンロードできます。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html#1-28
この手続きでは、支店をどこに設置するかによって用意すべき書類の内容が異なります。
支店所在地を管轄する法務局と本店所在地を管轄を管轄する法務局が同じ場合
本店所在地を管轄する法務局宛ての書類を作成すれば足ります。
支店所在地を管轄する法務局と本店所在地を管轄する法務局が異なる場合
本店所在地を管轄する法務局宛ての書類に加え、支店所在地を管轄する法務局宛の書類を作成します。とはいっても別々に作成する必要はなく、同じ申請書内に一括で作成して問題ありません。
なお、どちらの場合でも申請先は本店所在地を管轄する法務局です。支店所在地を管轄する法務局への書類は、ここで一緒に提出すれば法務局が送ってくれます。
③登録免許税・登記手数料を納付する
申請のタイミングで、登録免許税と登記手数料分の収入印紙を購入し、申請書に貼付して提出します。
登録免許税と登記手数料は、次のように定められています。
本店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 60,000円 |
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支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 管轄法務局1ヶ所につき9,000円 |
支店所在地の管轄法務局に納める登記手数料 | 管轄法務局1ヶ所につき300円 |
本店所在地の管轄法務局に納める登録免許税は必ず発生し、支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税と登記手数料は支店所在地と本店所在地の管轄法務局が異なる場合に発生します。
そのため、最低でも60,000円の費用がかかると認識しておきましょう。
支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税と登記手数料ですが、これは支店の数ではなく支店を管轄する法務局の数によって決まります。
渋谷区に本店を構える会社を例に、登録免許税と登記手数料の額がどのようになるのか見ていきましょう。
渋谷区に支店を1つ設置する場合 計60,000円
本店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 60,000円 |
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支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | なし |
支店所在地の管轄法務局に納める登記手数料 | なし |
港区に支店を1つ設置する場合 計69,300円
本店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 60,000円 |
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支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 管轄法務局が1ヶ所→9,000円 |
支店所在地の管轄法務局に納める登記手数料 | 管轄法務局が1ヶ所→300円 |
港区に支店を3つ設置する場合 計69,300円
本店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 60,000円 |
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支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 管轄法務局が1ヶ所→9,000円 |
支店所在地の管轄法務局に納める登記手数料 | 管轄法務局が1ヶ所→300円 |
港区に支店を1つ、横浜市に支店を1つ設置する場合 計78,600円
本店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 60,000円 |
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支店所在地の管轄法務局に納める登録免許税 | 管轄法務局が2ヶ所→18,000円 |
支店所在地の管轄法務局に納める登記手数料 | 管轄法務局が2ヶ所→600円 |
申請期限に注意!
支店の登記は、支店を設置した日から2週間以内にしなければなりません。
これは取締役会等の決議があった日ではなく、実際に支店を設置した日(議事録等に記載する)が基準となります。
不動産会社が支店の登記を行うメリット
支店の登記をしておくメリットとしては、「独立性」と「認知度」が挙げられるでしょう。
独立性が認められ、支店での決済が可能に!
登記簿上に記載された支店であれば、法的に一つの独立した事業所として認められることになります。これにより、本店から独立しての契約行為が可能となります。
支店の登記をしていない営業所等の場合、最終決定は全て本店で行わなければなりません。
支店の登記がされていれば、支店について印鑑登録や支配人(支店長のこと)設置の登記を行うことができます。これにより本店から独立して支店のみの権限で業務を進めることができるようになるので、いちいち本店決済をしなくてよくなる分業務がスムーズに行えます。
支店での融資が受けられる!
独立性が認められるが故のメリットです。支店独立型の会計を採用している場合は、支店は支店で独自の決算書類を作成します。この決算書類は外部に対しても意味を持たせられるので、支店としての立場で事業融資を受けることが可能になります。
支店の登記がされていない営業所等の場合でも決算書類の作成はしますが、あくまで本店への報告用という位置づけで融資申請等には使えません。内部手続き用の書類として扱えるのみで、外部に対しては意味を持たせられないのです。
登記簿への記載により認知度がアップ!
支店の登記をしていない営業所等の場合は、当然のことながらその存在が登記簿上に記載されません。一方、支店の登記をしていれば登記簿上に本店の情報に加えて支店の情報が記載されるので、支店そのものの認知度を高めるだけでなく会社全体の規模を大きく見せることができます。
宅建業免許におけるメリットも?
宅建業免許において本店以外の事務所(「従たる営業所」と表現されます。)を設ける場合、その事務所には「○○店」や「○○営業所」といった名称を付ける必要があります。
基本的には好きな名前を付けられますが、「○○支店」という名称を用いたい場合は原則としてその事務所について支店の登記がなされていることが求められることがほとんどです。
宅建業以外の業種についても同様の扱いをしているものが増えていて、支店の登記をしておくことで事務所名の選択の幅を広げることができます。
また、地域密着型の業務をメインとする宅建業者や建設業者の方の中にはその地域への定着をアピールするという意味で支店の登記を行う方も増えてきているようです。
支店の登記を行うデメリット
やはりメインとなるのは「コスト」です。代表的なものとしては、「登記費用」と「税金」が挙げられます。
登記費用も決して安くない
前述したとおり、支店の登記をするには登録免許税と登記手数料だけでも最低60,000円はかかります。司法書士等の専門家に依頼をすればその報酬等も別途加算されます。
さらに、支店の登記に加え支配人設置の登記も行えばその分の手数料もかかります。支配人の登記は就任(30,000円)と退任(30,000円)それぞれに登録免許税がかかるので、スタッフの入れ替えが多い会社の場合は注意が必要です。
独立性が認められるということは、税金も・・・
代表的なものとしては、その自治体に法人が存在することに対して課せられる均等割という税金と、所得に応じて税額が決まる所得割(法人税割)の2つが挙げられます。
本店と支店が同じ都道府県や市町村にある場合には問題ありませんが、違う都道府県や市町村にある場合は、それぞれの自治体に均等割を支払わなくてはなりません。
また、所得割(法人税割)についても、各自治体に分割して支払う必要があります。
以上が、支店の登記の概要と手続きの流れ、メリット・デメリットです。ご自身の会社には支店の登記が必要か否か、業種や会社の規模ともよく相談して決めると良いでしょう。本ページがそのための参考となれば幸いです。
まとめ
- 本店以外のオフィスについての情報を登記簿上に記載する、「支店の登記」という手続きがある。
- 支店の登記は、宅建業免許においては必須ではない。
- 支店の登記により独立性が認められ、支店の権限で契約等を行うことができる。
- 宅建業免許のような許認可が必要な業種においては、本店以外の事務所に「○○支店」という名称を用いたい場合には原則としてその事務所について支店の登記がされていることが求められる。
- 登記費用や税金等のコストが新たに発生するというデメリットもある。