宅建業を営む上で必要不可欠な存在である専任の宅地建物取引士ですが、専任の宅地建物取引士に就任する場合は宅建業者が行う手続きとは別に宅地建物取引士自身が行わなければならない手続きもあります。
宅地建物取引士には「資格登録簿」というものが存在し、主に次の4つの事項が記録されています。
- 氏名
- 住所
- 本籍
- 従事先
宅地建物取引士は、これらに変更があった場合は登録を受けている都道府県において変更の手続きをしなければなりません。これは会社ではなく、宅地建物取引士自身が個人的に行う手続きとなります。
専任の宅地建物取引士に就任する場合、4つ目の「従事先」が重要なポイントになります。ここの記録を適切にしておかないと、専任の宅地建物取引士の変更や宅建業免許の新規申請が受け付けられなくなります。
このページでは、特に間違いの生じやすい「従事先」について解説していきます。
宅地建物取引士の「従事先変更」手続きとはどんなもの?
宅地建物取引士は、勤務する宅建業者が変わった場合はその都度変更の手続きを行うことになっています。
具体的には、下記の内容が挙げられます。
①宅建業の会社Aに入社(宅建業の会社に勤めるのはこれが初めてか、宅建業者ではない会社から転職)
②宅建業の会社Aを退職し、新たに宅建業の会社Bに入社
③宅建業の会社Aを退職し、新たに広告代理店の会社Cに入社
従事先の変更といっても、手続きが必要となるのは勤務する「宅建業者」が変更となる場合のみです。
そのため、③のような場合は広告代理店の会社Cを登録するのではなく「従事先なし」いわゆる空白の状態にしておきます。
なお、広告代理店の会社Cを退職し飲食業の会社Dに入社するといった場合、特に手続きはいりません。
よって、宅地建物取引士の資格登録を受けているものの宅建業の会社に勤務しない場合は、従事先の登録を行う必要がありません。
「従事先」はどのようにすれば良い?
宅地建物取引士がこれから専任の宅地建物取引士として入社する場合、従事先をどのようにすべきかは2通りあります。
①宅建業免許を受けている会社に入社する場合
すでに宅建業免許を受けている会社に、前任者の交代や追加人員として入社する場合は、従事先をその「入社予定の会社」にしておく必要があります。
従事先の記録が変わっていないと、その会社が専任の宅地建物取引士を変更・追加する手続きを行うことができません。入社が決まったら、早めに従事先の変更を行いましょう。
②宅建業免許を新規で受けようとしている会社に入社する場合
これから宅建業免許を申請しようとしている会社で専任の宅地建物取引士を務める場合は、従事先を空白、つまり「従事先なし」の状態にしておく必要があります。
従事先の記録が残ったままになっていると、宅建業免許の新規申請ができません。入社が決まったら、早めに従事先の抹消を行いましょう。
なお、宅建業免許が下りた後でその会社を従事先として登録する必要があることに注意しましょう。
従事先変更の手順や必要書類は?
従事先変更の手順や必要となる書類は下記の通りです。
申請先 | 宅建士資格登録を受けている都道府県庁 |
---|---|
必要となる期間 | 窓口の場合は即日
郵送の場合は1週間~10日程度 |
手数料 | なし |
必要書類 | 宅地建物取引士資格登録簿変更登録申請書
※提出用原本と、控え用のコピーを1枚ずつ 宅地建物取引士証 |
入社の場合:
・入社証明書 ・従業者証明書 等 |
|
退社の場合:
・退職証明書 等 |
申請先
宅地建物取引士の資格登録を受けている都道府県庁に申請します。資格登録を受けている都道府県は、宅地建物取引士証に記載の登録番号((東京)第○○○○号)や都道府県知事の氏名で確認できます。
登録地が遠方の場合は、郵送でも手続きが可能です。
必要となる期間
窓口で申請する場合はその場で手続きが完了します。
郵送の場合は、1週間~10日程度かかるものとお考えください。
手数料
手数料はかかりません。ただし、郵送で行う場合の郵送代は自己負担となります。
必要書類
まず、変更の申請書として宅地建物取引士資格登録簿変更登録申請書という書類が必要となります。氏名や住所が変更となる時と共通の書類です。
各都道府県のホームページでダウンロードが可能です。
また、本人確認として宅地建物取引士証の提示(郵送の場合はコピーの送付)を求められますので、忘れずに持参しましょう。
入社する場合、つまり新たに従事先を登録する場合は、その会社の会社実印の押された入社証明書や、宅建業従業者証明書(カードサイズのもの)が必要となります。求められるものは都道府県によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。
退職する場合、つまり従事先を抹消する場合は、その会社の会社実印の押された退職証明書が必要となります。こちらも都道府県により求められるものが異なりますので、事前に確認しておきましょう。
注意点
手続き書類は、必ずコピーを一式持参(郵送の場合は返信用の封筒と共に同封)し、都道府県庁の受領印をもらうようにしましょう。
受領印の入ったコピーを持っていれば、手続きを済ませたことの確認書類として役立つためです。
手続き自体が完了しても、都道府県庁のデータベースに反映されるまで時間がかかることがあります。このような場合に受領印の入ったコピーを用いることで、手続きを済ませたことが分かるため、データベースに反映されるまで待つ必要がなくなります。
自分で手続きしないと何も変わらない!
宅地建物取引士の従事先は、ご自身で手続きをしなければ変わることはありません。
会社が専任の宅地建物取引士退任の手続きを行ったので、自分の従事先も退任になったものと勘違いしてしまう方が非常に多いです。
- 会社として、専任の宅地建物取引士を退任させる手続き
- 宅地建物取引士個人として、自身の従事先を変更する手続き
これらは完全に別物で、一方の手続き内容がもう一方に反映されることはありません。
専任の宅地建物取引士を退任したとしても、会社が宅建業を廃業しても、ご自身で手続きをしなければ従事先の登録が変わることはありません。
それぞれの手続きをリンクさせてくれないなんて何ともお役所仕事な印象ですが、下記のように考えるとイメージしやすいかもしれません。
- ・専任の宅地建物取引士を退任しても、宅地建物取引士証を保有する従業員や役員として会社に残る場合もある。
- ・会社は東京都で宅建業免許を受けていて、自分の宅地建物取引士証は神奈川県から交付されている。違う都道府県の役所に跨がって手続きを反映させることはあまりない。
10年以上前に退職した会社が未だに従事先として登録されていた、という事例は多いです。再度退職証明書をもらいに行くといった手間がかかる場合もあるので、従事先を退職する際には早めに変更の手続きを行いましょう。
商号変更でも従事先変更手続きが必要!
従事先の商号変更があった場合でも、従事先変更の手続きが必要となります。実際に従事先が変わったわけではないので忘れてしまいがちですが、こちらも会社が行った商号変更の手続きが自動的に反映されることはありません。
手続き内容は基本的に同じですが、入社証明書や退職証明書といった添付書類は不要です。ただし、都道府県によっては会社が行った商号変更届の受領印付副本や会社登記簿謄本の写しといった、商号変更が確認できる書類を求められることがあるので、宅地建物取引士登録を受けている都道府県に事前に確認しておきましょう。
なお、この手続きはお勤めの会社が宅建業免許を受けている都道府県に商号変更届を提出した後で行います。会社がいつ頃手続きを行う予定か確認し、スムーズに動けるようにすると良いでしょう。
宅地建物取引士の従事先登録は宅地建物取引士証に記載されないため、変更が必要であることや現在の登録状況、ひいては従事先登録の存在自体を忘れてしまいがちです。
なお、従事先の登録状況はご自身が宅地建物取引士の資格登録を受けている都道府県にて確認することができます。電話連絡でも可能です。本人確認のため、電話連絡の際はご自身の宅地建物取引士証と本籍地が分かるものを用意しておきましょう。
従事先登録は専任の宅地建物取引士に就任する際には非常に重要なポイントになるので、変更があった場合は早めに手続きを行うよう心がけましょう。自己啓発本みたいですが、キーワードは「自分で動かなければ何も変わらない!」です。
まとめ
- 宅地建物取引士には、宅建業の会社に勤務する場合に自身の従事先を登録する手続きがある。
- 既存の宅建業者にて専任の宅地建物取引士に就任する場合は、その会社を従事先として登録しておく必要がある。
- 新規で宅建業免許を申請しようとする会社にて専任の宅地建物取引士に就任する場合は、従事先登録を空白(従事先なし)にしておく必要がある。宅建業免許が下りた後で、その会社を従事先として登録する。
- 従事先として登録している会社が専任の宅地建物取引士の交代や廃業の手続きを行っても、宅地建物取引士個人の従事先登録には反映されない。
- 従事先に商号変更があった場合も、従事先変更の手続きが必要となる。
- 自身の従事先登録状況は、登録を受けている都道府県に電話確認することが可能。