不動産業を開業するためには、宅建業免許を取得しなければなりません。
宅建業免許は個人事業主としての立場で取得することもできますが、大多数の方は会社を設立し、会社で宅建業免許を取得します。個人事業主として営業するより信用を得やすいですし、節税対策にもなるからです。
そもそも、株式会社と合同会社の違いは何?
ところで、皆様は株式会社の他に「合同会社」というものを聞いたことはあるでしょうか。「合同会社?実はよく知らない」と思われた方も、「知ってはいるけれど、株式会社との違いがよくわからない・・・」「結局、どちらを選べばいいの?」とお考えの方もぜひご一読ください!
株式会社と合同会社は名称も違う以上その形態は似て非なるもので、それぞれにメリットとデメリットがあります。あくまで一例ですが、それぞれの違いを説明していきます。
【1】会社が誰のものなのか
まず株式会社と合同会社の違いをかなり簡単に表すと、会社が誰のものなのかという違いがあります。難しい言葉で言い表すなら「所有と経営の分離」があるかないかという違いです。
「会社が誰のものかって?そりゃ社長のものでしょ?」そう考えるのが自然かもしれませんが、実はそうではありません。
株式会社の場合
株式会社の場合、会社は「出資者」のものです。会社を経営していけるだけの資金を出資して会社の株式を買ってくれている人、すなわち株主こそが会社の所有者なのです。
社長自らが全資金を出資する株主であるという場合ももちろんありますが、経営や実務にはかかわらずにお金を出してくれているだけの人が株主という場合もあります。
つまり、会社を経営する人と株主が別人であり、ここに所有と経営の分離が生じていることになります。
合同会社の場合
合同会社の場合、会社は「出資者」のものです。さっきと言っていることが同じじゃないかって?そうではありません。ここでいう「出資者」は株主のことではありません。
合同会社は、「社員」が自分たちでお金を出し合って出資金とし、設立します。ここでいう「社員」は、一般的な従業員やサラリーマンという意味とは異なります。社長や役員クラスの偉い人たちだとお考えください。
よって株式会社とは異なり、経営をする人と出資者が同じ人ということになります。合同会社の場合は「社員」=「出資者」なのです。ここでは、所有と経営の分離が生じていないことになりますね。
株式会社も合同会社も「有限責任」
株式会社の株主と合同会社の社員は、どちらも「有限責任」を負っています。
不幸にも会社が倒産してしまった場合、株主や社員はどれだけの負債を負うことになるのでしょうか?その答えは、「出資した金額の範囲内」です。責任を負う限度が決まっているので、「有限責任」と表現されます。
例えば、100万円を出資していた株主(または社員)がいたとします。会社が倒産した場合、出資した100万円は戻ってきませんが、会社に1億円の負債があっても100万円より多くの責任を負う必要はありません。
これは株式会社の株主も合同会社の社員も同じです。倒産させないことが第一ですが、このことがわかっていればより出資を募りやすくなるので覚えておくとよいでしょう。
【2】最終決定は誰がする?
会社の最終意思をだれが決めるかについては、【1】でもあったように「会社が誰のものなのか?」ということに注目するとわかりやすいです。
株式会社の場合 → 「株主総会」が最終意思決定機関
合同会社の場合 → 「社員総会」が最終意思決定機関
つまり、会社を所有している人たちが最終意思決定機関を構成することになります。
株式会社の場合は経営陣の意向だけでなく株主たちの意向にも沿う必要があります。そのため、それぞれの考えに齟齬があると意思決定がスムーズにいかない場合もあります。
一方、合同会社は社員たち、つまり経営陣が最終意思決定機関を構成するため、会社としての意思決定をスムーズに行うことができることが多いです。状況に応じて、より柔軟かつ迅速に対応できるといえます。
【3】大規模経営かそうでないか
たとえば「東証一部上場」と聞くと、いかにも大企業なカンジがしますよね。これができるのは、株式会社だけです。
合同会社にはそもそも株式が存在していないため、「株式を上場させる」ということができないのです。
株主をどんどん募って出資を増やし、会社の規模を大きくしていきたいとお考えであれば株式会社がいいですし、不動産会社を設立する時点においては規模を広げていくことをそこまで優先しないのであれば、合同会社を選択するのもいいでしょう。
【4】役員の任期
株式会社の場合は、取締役や監査役といった役員の任期が法律で決まっており、その任期を迎えるたびに登記をしなければなりません。違う人が新しく就任する場合はもちろん、同じ人が引き続き務める場合でも「再任の登記」というものをしなければなりません。
「任期満了」という大義名分があるので人事上の整理はしやすくなるというメリットがある一方、定期的に登記をしなければならないためそれだけ時間とコスト(登録免許税や専門家への依頼料等)がかかります。
合同会社には、役員の任期がありません。業務に直接かかわる役員が辞任した場合は変更の登記が必要ですが、任期がない以上は定期的な登記手続きが必要ありません。一方、株式会社と逆に任期を理由に人員整理ができないという短所もあります。
【5】代表者の肩書
会社の代表者というと、「社長」の他に「代表取締役」という肩書がイメージしやすいと思います。
株式会社では会社の代表者は「代表取締役」ということになりますが、合同会社ではこの「代表取締役」という肩書を使えません。合同会社では、代表者の肩書は「代表社員」とされます。
どちらも会社を代表しているということに変わりはありませんが、名刺やウェブサイトなどに表記する機会も多い肩書にもこだわりたい方は、お気を付けください。
【6】設立の手間とコスト
株式会社と合同会社の違い、不動産会社を設立する時点において、なんといっても一番気になるのはここではないでしょうか。
ひと言でまとめてしまうなら、手間とコストでいえば株式会社の方が手間もかかり高コストであり、逆に合同会社は手間も少なく低コストです。
この点、より詳しく見ていくことにします。
会社設立にかかる手間の違い
一番の違いは、会社設立の手続きにおける公証役場での「定款の認証」の有無です。株式会社の場合は設立登記の前に公証役場というところで公証人という専門家の先生から設立する会社の定款認証を受け、これから定めようとしている定款に問題がないことのチェック・お墨付きをもらわなければなりません。
一方、合同会社の場合はこの定款の認証が不要(公証役場で定款認証を受ける手続きを経ずに不動産会社の設立が可能)なので、その分の手間が発生しないことになります。
会社設立までの諸費用の違い
会社設立において大きな費用が発生するのは、主に定款と登記(登録免許税)の二つです。
株式会社と合同会社に分けて、それぞれいくらかかるのかご説明します。
株式会社の場合
定款の費用 | 定款認証代 | 5万円 |
---|---|---|
収入印紙 | 4万円 ※1 (電子定款認証の場合は不要) |
|
定款謄本代 | 約2000円 ※2 | |
登記の費用 | 登録免許税 | 15万円~ ※3 |
※1 電子定款の場合は収入印紙が不要になりますが、別途有料の電子証明書を取得する必要があります。
※2 発行してもらう部数により異なります。
※3 登録免許税は、(資本金の額)×0.7%により算出した金額です。ただし、15万円を下回る場合は一律15万円となります。
合同会社の場合
定款の費用 | 定款認証代 | 不要 |
---|---|---|
収入印紙 | 4万円 ※1 (電子定款認証の場合は不要) |
|
定款謄本代 | 不要 | |
登記の費用 | 登録免許税 | 6万円~ ※2 |
※1 電子定款の場合は収入印紙が不要になりますが、別途有料の電子証明書を取得する必要があります。
※2 登録免許税は、(資本金の額)×0.7%により算出した金額です。ただし、6万円を下回る場合は一律6万円となります。
設立にかかる費用の総額
株式会社 | 25万円程度 |
---|---|
合同会社 | 10万円程度 |
また、これに加えて行政書士や司法書士等の専門家に手続を依頼した場合はその報酬も別途支払わなければなりません。ただし専門家の多くは電子定款認証を行うことができるため、定款に貼付する収入印紙代の4万円は節約することができます。
株式会社を設立する場合は、どれだけ費用を抑えたとしても最低25万円程度はかかり、合同会社を設立する場合は最低10万円程度はかかるものとお考え下さい。
株式会社か合同会社か、おススメはどちら?
株式会社と合同会社、違いはいろいろ見てきたけれど、不動産会社としてはどちらを選べばいいのでしょうか?
宅建業免許取得に限った話で言えば、株式会社でも合同会社でも宅建業の免許は受けることができます。
よって、形式的にはどちらを選択するか自由に決めていただいて構わないです。
ここではそれぞれのメリット・デメリットを解説するので、悩まれている方は比較の参考になさってください。
株式会社を設立するメリット
- 社会的認知度が高く、営業活動における信頼を得やすい!
- 株式による資金調達が可能であるため、合同会社よりも資金調達がしやすい!
株式会社を設立するデメリット
- 設立時のコストが高い
- 事業年度ごとの決算報告義務がある
- 役員に任期があり、その度に改選した上で変更の登記をしなければならない
合同会社を設立するメリット
- 設立時のコストが安い!(定款認証が不要になるなど)
- 役員の任期が無いため、改選・登記の必要がない
- 事業年度ごとの決算公告が不要である(ただし決算自体は行う必要あり。)
合同会社を設立するデメリット
- 社会的認知度が低いため、営業活動がしづらい
- 株式公開ができないため、上場できない(会社の規模を拡大しづらい)
「合同会社」という形態はまだまだ社会的認知度が低く、どうしても閉鎖的な零細企業のような印象を与えてしまいます。実はGoogleやワーナーブラザーズは合同会社なのですが、これは例外中の例外でしょう。
すでに営業上の地盤がある程度出来上がっていて、あとは会社さえあればすぐに仕事が入ってくるという方であれば合同会社でもいいかもしれませんが、合同会社を設立する確固たる理由がない状態でどちらにするかを悩んでいるのであれば、株式会社をおススメします!特に「設立費用が安いから」という理由だけで、設立時点で合同会社を選択することは得策ではないです。
不動産業界はメンツや信用をかなり重視する色の強い業界といえます。ルール上株式会社でも合同会社でも問題はないですが、株式会社を選択する方が無難といえるでしょう。
まとめ
- 株式会社でも合同会社でも、宅建業免許は取得できる。
- 会社は株式会社と合同会社のいずれかで設立されることがほとんどである。
- 株式会社と合同会社には、経営の形態や設立のコストなどの面で様々な違いがあり、株式会社は規模を広げやすいが設立コストが高く、合同会社は規模は小さくなるものの設立コストを抑えられる。
- 信用やメンツを確立しやすいという点で、不動産会社とするならば株式会社としての設立を選択する方が無難といえる。